飽きるの(大島)


◆アンケートエッセイ週間

無作為にチョイスしたいくつかの単語の中で、Twitterアンケートを実施!
今週は、それにより選ばれた『メロンパン』のワードをテーマに、劇団員によるエッセイを日替わりで掲載します。

【vol.1】

by 大島 麻季

メロンパン好きの人には、大変申し訳ないと思う。
「メロンパン」と聞いて沸き起こる感情は「美味しいけど、飽きる」なのだ。私の場合。

基本的に何でも美味しく食べる人間である。食品に対して【飽きる】という感情を抱くことは全くないのだが、メロンパンだけは、どうも…。最後まで食べきるのに気合いが必要になる、唯一の食べ物だ。

では、なぜメロンパンは飽きてしまうのだろうか。
改めて考えながら食べてみることにする。

最近では小さいものや色々味付けがされたものもあるが、ここで食べていくのは、誰もが知るであろう、あの丸い、大きいメロンパンである。


封を開け、手に持ってみる。
重さはない。ただ少し、大きい。ここで、食べきらねば、という気合いが入る。恐らくこの時点で、メロンパンとの精神的な距離が、少し生まれた。

かじってみる。
甘くないメロンパンなんてあるのだろうか。そう思うくらい、王道的な甘さが口の中に広がる。その甘さの正体は、パン生地を覆うカリサク感満載のクッキー生地である。ものによっては、粒が大き目な砂糖がかかっているものもあり、私が食べたものは、かかっていた。ふわふわとサクサク、さらに砂糖のジャリジャリが同時に楽しめる、癒しのひとときである。

ここで、メロンパンとの距離が縮まる。

少し食べ進めると、食べづらさに気付いた。
楽しいひとときをもたらしていたクッキー生地であるが、なかなかハードな質感をしている為か、ボロボロとこぼれ始める。上手に食べることができれば問題ないのだろうが、私の場合、どうしても上手く口に運ぶことができない。

縮まった距離、再び離れる。

勿体ないので落ちたクッキーを食べる。
普通に美味い。パン生地と別々に食べる楽しさを味わう。このカリサク感なら、永遠に食べることができるなと、ひとりで頷く。

ただ別々にすると、パン生地を食べきることができないような気がしていた。ネガティブな感情が生まれている。原因は何だ。飽きる原因はここにあるのか。

別々にしたら食べきれない、一緒なら食べきることができる。なるほど、私にとっての食べきれない原因は「パン生地」にあるのかもしれない。

パン生地だけ食してみる。
美味しい。だが少し刺激が足りない。これだけでは少しキツイか。と思ったが、クッキー生地と一緒に食べ進めれば問題はないだろう。なぜなら、ふわふわとサクサク、さらに砂糖のジャリジャリが同時に楽しめる、癒しのひとときが私を待っているからだ。

そう思っていたのも束の間であった。
消費量が半分を過ぎたところで、食べ進めるのが段々億劫になってきているのだ。口の中に含める量がわずかであり、なかなか進まない。食べても減っていない気がする。心なしか、胃が徐々にメロンパンの甘さを拒否し始めているようにも思えてくる。

このままこの味が続くのか。
うんざりとした気持ちが、ジワリと迫ってきている感覚を覚えた。

ハッとした。私は今、メロンパンの【味】に飽きている!
同じ味が続くことが、私の【飽き】の正体だったのだ!


そもそも、【味に飽きる】とはどういうことなのだろうか。美味しいと感じていたのに飽きてしまう、という仕組みが知りたくなった。

少し調べてみると、人間という生き物はそもそも【飽きる】ようにできているそうだ。人は飽きると、新しい刺激を求めるようになり、その刺激から学ぶことで、様々な生存競争に勝ってきたと。

ただ、【味に飽きること】に関する詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていないとのこと。
仮説として挙げられていたのが、食べ始めの新鮮な刺激に対してはドーパミンが多く分泌されるため、脳が喜び興奮した状態になっている。しかし、食べ続けるという同じ刺激を繰り返している内にその分泌量が減ってくることで、新鮮味が無くなり、飽きてしまう、というものだ。

また、【味に飽きること】は、栄養バランスを保つ上でも役に立つという考察もあった。
人間は雑食であり、多くの食べ物から栄養を摂取することによって生命機能を維持している。同じような味の物を食べ続けていると、その刺激に対する喜びが薄れて【飽き】が来るという機能が働く。その機能が他の物を食べたいという動機を生み出し、自然と栄養摂取のバランスを整えることに役立っている、というのだ。

ネガティブなイメージのある【飽き】という言葉も、気合いが足りないとか、そういう精神的なものではなく、私たちが生き抜くために根深く人間に備わっている大切な機能なのだということを、メロンパンから学ばせてもらった。


メロンパンに対する罪悪感が少し軽くなったところで、何だか無性にメロンパンが食べたくなってきた。
次は中にクリームが入っているものや、チョコチップが練り込まれているものといった、定番以外のメロンパンを探してみよう。コンビニではなく、パン屋さんのメロンパンを買おう。
カロリー?知らないそんなの。

メロンパン、飽きはするが、結局また食べたくなってしまう。私にとってはきっとこれからもこの先も、メロンパンはそんな存在で有り続けるのであろう。

私自身も、誰かにそう思ってもらえるような、メロンパンみたいな人間になりたいものだ。


大島 麻季

2008年甲南大学演劇部「甲南一座」入部。
制作としての力量を蓄え続けた学生時代、渡辺から舞台監督を指名されたことをきっかけに、その後右脳爆発全公演において舞台監督(補佐含む)を務める。が、監督する対象はあくまでも「人」。舞台はさておき、関係者のことを気にしたら自分の仕事が捗らないTHE気配りさん。
優しさと裏腹に時には全体を締め上げ、劇団会計をも司る大蔵大臣、またの名を右脳爆発の母。「右脳爆発は大好きな劇団さんのひとつです」という優しい言葉を、かつて会場管理人から頂いたのは誰ともすーぐ仲良くなってしまう彼女の気質ゆえに違いない。

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