なんとなくメロンパン(佐藤)


◆アンケートエッセイ週間
無作為にチョイスしたいくつかの単語の中で、Twitterアンケートを実施!
今週は、それにより選ばれた『メロンパン』のワードをテーマに、劇団員によるエッセイを日替わりで掲載します。

【vol.5】

by 佐藤 陽香


2020年4月4日㈯
―某阪急駅ロータリーにて。
 
すべてはここから始まった。
 
私はその日、自分の誕生日ケーキを買いに最寄りのJRではなく、家から遠い阪急の駅前に向かった。もう、この歳になると誰も用意してくれないので、ご褒美と称して自分で買いに行く。悲しい。車は弟が出してくれた。優しい。
昔から馴染みのケーキ屋で好きなケーキを買い、弟の待つ車に戻った。このご時世あまり外を出歩くのもあれなので、帰ろうと声をかけたが、反応がなく、見ると弟はケーキ屋の隣にある店をガン見していた。美味しいのかどうか気になっている、買ってみようか悩んでいる様子だった。買ってみたらと勧めてみたが、今日はいいやという。その店で売られている商品からして、なんとなーくわかる感覚だった。そんなに執着するほどではないが、なんとなく、惹かれる。
その時、右脳爆発劇団員のグループラインの通知が鳴った。「エッセイのテーマ募集」というメッセージだった。昨今のコロナウイルスの影響で、劇団として自由に活動ができない、せめてブログやツイッターなどのSNSの更新は活発にしていきたいという考えから発足したブログ企画だった。スカイプ会議で「テーマは演劇に関係なくても構わない」という話だった。何も考えず私は、すぐに以下のように返信した。
スピードで岡田くんの「征夷大将軍」に負けた。
私と岡田くんはアホ丸出しであった。直後、渡辺さんから
とメッセージがきた。然るべき確認だと思った。これではブログ企画がカオスそのものになってしまう。岡田くんと私はあまりにもずさんだった。エッセイと向き合うことに対して、あまりにも杜撰だった。ずさんって漢字で「杜撰」って書くんだなって変換機能で今初めて知った。杜撰さで岡田くんに軍配が上がり、征夷大将軍は却下されてしまった。個人的には征夷大将軍がアンケートの項目の一つになって、1位を取るところを見たかったようにも思う。だが、その瞬間、劇団員は「征夷大将軍」と真正面から向き合わなければならないことになる。令和のこの時代に。却下されてよかった。
 
代わりに劇団員たちは、私は、真剣に「メロンパン」と向き合わなければならなくなった。うかつだった。もう少し真剣にお題を考えればよかったと思った。
メロンパンに関してエッセイを書けと言われても、なんとなく日常にメロンパンが浸透しているから「特別なエピソード」というものがない。そう思うと同時に、メロンパンという存在そのものが、昨今、己を見失いかけている「なんとなくの存在」になりかけているんじゃないかと思った。常に不動の1位であるが故に、爆発的なブームが起こったことはあったが、今やそのブームはバカ高い食パンに取って代わられている。
「なんとなく」と「適当」って似ている。「なんとなく」は角が立たない、「適当」はなんか刺々しさがある。
 
とんでもない持論だが、私はメロンパン程、自我を見失っているにも関わらず、こんなに人気のあるパンって他にないって思っている。メロンパンってそもそも見た目だけ。中身がないと言えば怒られると思うが「いちごメロンパン」ってもういちごなの!?メロンなの!?ってキレそうになる。食べたらイチゴの味しかしない。抹茶メロンパン、キャラメルメロンパン、マンゴーメロンパン。素材を生かさずに弄ばれている。挙句の果てには「皮だけ」で売られる。お前にプライドはないのかと思う。可哀想だと思う。
でも、人気がある。見た目とネーミングのキャッチーさで何か特別なものと思わせるのが非常にうまいんだと思う。人の「なんとなく」に付け込むのがうまいんだと思う。私も今回はまんまと付け込まされたし、アンケートでメロンパンに投票して下さった方々もおそらく「なんとなく」だったんじゃないかと思う。何か意図があって、政治的考慮があって「メロンパン」というお題を出すに至ったわけではなかった。メロンパンで政治なんてやられてたまるかと思う。ただ、メロンパンというのは無意識に「選ばれる存在」なんだと思った。メロンパンが選挙に出たらたぶん、なんとなくでみんな票を入れ、なんとなく勝つんだろう。
 
「メロンパンってそんなに深い意味を見出すものじゃないと思う!」と言われてしまったら、それまでだが、メロンパンに深い意味を見出そうと努力している人たちもきっといると思う。すごい人たちだと思う。
私たちは「なんとなく」で向き合ってきたものと、真剣に向き合わないといけなくなる瞬間が人生できっと、何度かはあるんだと思う。それは人それぞれで、深刻さも何時なのかも違うのだろう。
 
「なんでメロンパンにしたかって?そこに、メロンパン屋があったから。」
登山家みたいだなって、でも本当にそのLINEが来たタイミングで目の前にメロンパン屋があった、ただそれだけのこと。よく梅田とかなんばとかでも見かける、おそらくブームの時にできたチェーン店。なんとなく、なにも考えず、送ってみた。
でもまさか!そんな!だって!ねえ!1位に選ばれるなんて!思ってもみなかった!
こういう後悔に似た気持ち、日々過ごしていて随所に感じる。
 
そう思うと「なんとなく」というものに真剣に向き合うことって実はすごく大事なことなんだって思える。そう思わせてくれたメロンパンに感謝したい。自我がないとか言ってごめん。メロンパンはメロンパンできっと頑張っている。実際に私が今このブログを書きながら食べている、冒頭の店で買ったホイップクリームメロンパンはとても美味しい。2:1でホイップクリーム:メロンパンの割合だ。ホイップクリームがとても美味しい。メロンパンはクリームを支えるために頑張っている。
この写真からではよくわからないが、本当に2:1でホイップクリーム:メロンパンの割合だった。すごく美味しかった。

「なんとなく」と「真剣に」向き合うことが大事なんじゃないかということを確認できたのが、今回「メロンパン」というお題でエッセイを書くことによって得ることのできた収穫だった。アンケートにご協力して下さった皆様、本当にありがとうございました。もっと真剣にお題考えたらよかったー!とか、後悔してるようなことを書いておりましたが、実は嬉しかったです。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
 
最後にこの投稿を通して、1つだけ確認したいことがある。
「エッセイのテーマ募集」というメッセージが来たとき、岡田くんの目の前には「征夷大将軍」がいたんだろうか。


佐藤 陽香
2010年甲南大学演劇部「甲南一座」入部。学生時代から役者と音響を担当、大学卒業間近のタイミングで第二次右脳爆発に参戦したことを機に活動を継続し、ダイナミックな芸風に一定の評価を得る個性派女優。
役のカバー領域の広大さゆえか「昔からよくお母さんとかおばさんとか年齢層高い役ばっかりなんですよねー」と本人談。物静かな役が回ってこないのもまた確かな実績からは想像しえない、実は超謙虚人間。自己評価の過小さが右脳爆発随一のコメディエンヌたる濃密役作りへと還元されてゆく。ちなみに右脳爆発でのおばさん率はおよそ60%。

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